タカラヅカとご贔屓と私

いつも心に黒燕尾

Like mother,like daughter.

2016年1月、宙組の『シェイクスピア』大劇場公演中のある日のこと。

前日の夜、「ちょっと体調悪くて…明日の観劇無理かも…」と切ないラインを送ってきた友人が、マスクをつけ開演ギリギリにやってきた。良かったね!ありがとう!今年もよろしく!こちらこそ!ていうかプログラム表紙のまぁ様のドヤ顔最高じゃない?最高〜ジャケ買い待ったなし〜!!などと早口で話しながら客席へなだれ込み、その日も最高の観劇を経た。

その帰り道、友人からお母様より小言をちょうだいした話を聞いた。曰く、

「無理して観劇に行って、明日会社休むことになったらどうするの」

ごもっとも。完全にその通りである。社会人たるもの、体調管理も仕事のうちだ。

後日、母にその話をしてみた。

「そんなん観劇優先やん!観劇はチケット買ってるその日しか行かれへんけど、会社は1日ぐらい休んだって、またいつでも行けるやん!」

なるほど〜!!確かに月曜休んでも火水木金と4日も行くもんね!!慧眼〜!!と個人的にはめちゃくちゃ同意するが、やはりこれは一般的な感覚ではないと思われる。でも私の母はこうだ。なぜか。

なぜなら、私の母もまた、ヅカオタだからである。

初観劇は2000年の『あさきゆめみし花組公演。翌2001年の『ベルサイユのばら星組公演ではまって、定期的に通うようになり、スカイステージ(宝塚専門チャンネル)を契約し、気がつけば我が家にタカラヅカが加わった。ご贔屓は朝海ひかるさんと安蘭けいさん。同じ頃、私は四季さんにだだハマりしていたので、ジャンルは違えどリピート観劇や遠征に理解のある母親はとてもありがたかった。

それに何より、母親の世界がどんどん広がって毎日楽しそうなのが良かった。色々調べて四苦八苦しながらCS放送が映るようにしたり、チケット掲示板を利用して知らない人と待ち合わせたり、ネイルサロンに行ってみたり、1人で東京や博多まで出かけたり。

ある年、母親の誕生日に2人でご飯に行った時に、

「大学行くフリして四季さんのマチネ公演観に行ってたの知ってるよ!ちなみにお母さんがパート行くフリして名古屋公演観に行ってたの知ってた?」

と言われて本当にびっくりしたし、最高だなと思った。朝、私達に朝食を用意し、お弁当を作って送り出してからダッシュで出かけ、私達が帰って来る前には帰宅して何食わぬ顔で夕食を作っていたと。最短のルートはネットで教えてもらったと。顔も知らないヅカオタの皆様、母がお世話になりました。

 

ご贔屓が退団してしばらく母もタカラヅカから離れていたが、私がヅカオタになるに伴い、華麗な復活を遂げている。観劇中の母から幕間に感想メールが届いたり、一緒に観に行ったり、その後飲みに行ったりできてすごく楽しい。新たなご贔屓は月組のありちゃんこと超路線ジェンヌ・暁千星様。長く楽しめそうでとてもいい。前回の誕生日には真風涼帆様主演の『ヴァンパイア・サクセション』のチケットをくれた。最高に嬉しかった。

「しかもタカラヅカを観たら大体の体調不良は治る!だからむしろ、行った方がいい!!」と持論をまだ展開している母を前に、私は恵まれた自分の環境に感謝した。

持つべきものは、ヅカオタの母である。

ヅカオタが生まれた日

2014年9月7日。

午前5時、私は阪急梅田駅から宝塚行きの電車に乗り込んだ。

 

私は高校生の時に芸術鑑賞で四季さんの『キャッツ』を観て以来、ミュージカルだだはまりコースを歩んできた、ただのカスOLである。四季・東宝劇団☆新感線ほか、ミュージカル界隈をウロウロしてきた。タカラヅカはどちらかというと母の領域で、誘われたり演目が気になる時に・・・という、「たしなむ程度」だった。

2014年、タカラヅカは100周年という記念の年だったわけで。別件で遊んでいた時、観劇仲間でもある前職の後輩・Kちゃんが言った。

「宝塚100周年なんですよね。エリザやるらしいですよ。観に行きません?」

「エリザか~行く行く~」

軽~く返事した自分を、今すご~くお説教したい。エリザこと『エリザベート』は、1996年雪組で初上演されて以来、2014年花組公演で8度目の上演となる超人気ミュージカルなのです。昭和のタカラヅカを象徴する人気作がベルばらなら、平成のタカラヅカを象徴するのはエリザじゃないかなぁと思う次第。

それでも「大体のチケットはね、『絶対取れない』ことはないんですよ。」と豪語する観劇エリートのKちゃん。その後ぞくぞくと報告が届いた。

「友の会先行抽選、全滅でした」「プレオーダーだめでした」「友の会の二次も落選しました。一般発売に賭けます」「みどりの窓口先頭だったんですけど、残席なしでした」

まさかそんな。チケット確保に関しては、私達そこそこ経験値あるのに??全然取れない感じ??お話にならない感じ??打ちのめされた私達(Kちゃん含め4人)は、ついに結論を出した。

「何がなんでも、絶対観ような!!!!」

 

そんなわけで、午前5時発。ちなみに始発、決意の午前4時起き。「毎朝5時きっかりに全て始めるのよ」と劇中で仰る皇太后ゾフィー様に先手打てるやつ。顔も洗ったよ!!

宝塚駅に到着したのが午前5時半過ぎ。

電車を降りた瞬間から、同志と思われる方々との競歩が始まる。でも誰も走らない。清く正しく美しく。30人ぐらいは並んでるかな?とか話しながら急ぐ。着いた。

150人ぐらいいました。

ちなみに当日券は座席券+立ち見で200枚ほど。えっ5時半着で?当日B席(2階席最後列。40席ぐらい)は無理かもね~とかじゃなくない?

 チケット販売開始の10時まで、不安に駆られながらひたすら待つ。カチカチと人数をカウントしながら歩く係員さんの険しい目、どんどん伸びる行列、聞こえてくる「今お並びいただいてもお買い求めいただけない可能性がございます」とのお声がけ・・・

4時間強、緊張と9月の日差しに耐え、なんとか手にした立ち見席。達成感がすごかった。あと疲労も。

しかも立ち見2列目。立ち見は1階席最後列の後ろなので、1列目は座席ゾーンとの間の柵にちょっともたれたりできるけど、2列目はただまっすぐその場に立つ、ガチ立ち見。後ろにはなんと立ち見3列目もいるのです。

正直足が痛い・・・集中して観られるかな・・・と不安な中、始まった『エリザベート』。

登場する黄泉の帝王・トート閣下。エリザベート皇后を愛し、彼女の愛を得るために追いかけ続ける「死」という不思議な存在である。演じるのはこの公演がトップお披露目である、花組の新トップスター、明日海りお。

ほとんど習慣で双眼鏡を構えた瞬間、もう、

この胸の!!!!

ときめきたるや!!!!

 こんなに美しい人が、この世にいたのかと!!知らなかった、どうしよう、手が震えて視界がぶれるんですけど!?ポスターでもビジュアルいいなぁとか言ってたけど、実際に劇場の舞台で存在している姿はもっとずっとかっこよかったし美しかった。

幕間休憩になった瞬間、私達4人はロビーのソファに倒れこんだ。観劇中は気づかなかったけど、足と腰がめちゃくちゃ痛かった。双眼鏡を持っていなかった2人に私とKちゃんは「今すぐ借りてきた方がいい!!!!」と開口一番に伝え、彼女たちは貸出カウンターへ向かって転がるように駆け出していった。

二幕もひたすら美しくエリザベートを追う美しい明日海トート、それをひたすら目で追う私。エリザベート←閣下←私のまさしくデッドヒート。美しく壁にもたれる閣下、美しくルドルフの棺の上でグラビア座りする閣下。パーフェクトビューティーにも肌がある!!

フィナーレのトップスター・トップ娘役によるデュエットダンスのラストで、明日海りお様が相手の娘役さんが高く上げたその足首にキスをする振りがあった。はい客席全員死~んだ・・・と思った。

終演後、なんとか生きていた私達はあまりの衝撃に呆然としながら劇場を後にした。

「明日海りお様さぁ・・・100点満点で、歌87点、芝居95点、ダンス85点、顔面2,000点じゃない?」

Kちゃんは「それな」という目をしていた。

 

午前4時起きをキメた私に、今でも私は感謝している。間違いなく2014年のベストアクションである。ナイスジャッジ!!!!

こうして私は、駆け出しのヅカオタとしての第一歩を踏み出したのでした!